チンパンジーえにっきイメージ

岡山県玉野市にあった類人猿研究センター(GARI)で研究のパートナーとして暮らしていたチンパンジー8人。
彼らのようすを、写真を添えてつづってきた2004年8月から2013年3月までの「えにっき」の記録です。

2012.12.29「つながり」

2012年12月19日、水曜日。
毎月第3水曜日はチンパンジーのためのエンリッチメント作業の日。

新しい遊具を作ったり、ハンモックをとりつけたり、広い放飼場をぐるりと周れるような長~いロープを張ったり、新しいさんぽ道を作ったり、落ち葉を入れたり…。
チンパンジーの暮らしをよくするための作業をする日です。

作業は基本的に類人猿研究センター(通称GARI)のスタッフでおこないます。
男女問わず力仕事がたくさんあり、電動のこぎりや工具を使った作業、高所作業、草刈りなど何でも来い!

"エンリッチメント作業"と言っても、最近では、設備の劣化や人手不足などもあって、壊れた個所を修理するメンテナンスに追われていました。
でも、この日は残りわずかなGARIでの生活をチンパンジーのみんながちょこっとでも楽しく快適に過ごせるような環境づくりをしました。

今回の作業はちょっと地味かも?

寒い季節に少しでもあたたかく過ごせるよう、ひなたぼっこができそうな場所の草刈りをして、そこにワラをたくさん入れること。

もうひとつ、タワーの5メートル地点に設置されているフラットで何も無いベッドに、ベッドを作る素材として消防ホースをたくさんたらし、チンパンジー自身がベッド作りをしたくなるようなしかけをすること。
これらを、修理メンテナンスと並行しておこないました。

この日、放飼場メンテナンスを手伝ってくれたお客さんがいました。
10年前、GARIに勤めていた獣医の紀代恵さん。
同じく10年前の大学生の頃、卒業研究のために通っていた法貴さん。
そして3年前から共同研究をおこなっている京都大学野生動物研究センターの伊藤さんです。

みなさん、たまたまこのメンテの日にGARIに来られていました。
そして、作業を手伝ってくださいました。

(下写真:放飼場にワラを入れるようす)

紀代恵さん や法貴さんがよく知っているのは、10年前のまだ子どもの頃のチンパンジーのみんな。
伊藤さんがよく知っているのは、大人になった最近のみんな。
彼らの成長過程の違う部分を見ています。
私は、子どもの頃のみんなを知らないので、ちょっとうらやましい気が・・・。

(下写真:10年前の紀代恵さんと6才の頃のミズキ)

この日一緒に作業をしたメンバーは、
8人のチンパンジーの「わりと最近」しか知らない人、 「むかし」しか知らない人、「すべて」を知っている人、さまざまです。

GARIの14年間という短い歴史の中でも、たくさんの人が入れ替わってきました。
その中で、「むかし」いた人と「今」いる人が新たに出会い、「チンパンジーのため」の作業を一緒にできることが、ちょっと不思議であり、とてもありがたく思いました。
こうしたつながりが今後も末永く続き、また新たなつながりに発展していけたらいいな、と思っています。

…そんなことを考えながら巻き付けた消防ホースのベッドは、こんな感じです(笑)

(下写真:突き出したベッドにホースをたくさんたらす)

みんなでおこなったちょっと地味な作業(?)の結果がどうなったかをお知らせします♪

ワラの効果は絶大です! すぐにみんな大喜びで遊びました。
4才のイロハにとってはワラもおもちゃ。ナツキに向かってふりまわしています。さらに、イロハの新しい遊びは「高いところからワラと一緒に落ち遊び」!楽しそうに、何度も繰り返します。

(下写真:【上】ワラを持ってナツキと戦うイロハ、【下】ワラと一緒に落ちることを楽しむイロハ)

一方で、大人たちはせっせとベッドを作っていました。 翌日からも、入れ替わりだれかがここでベッドを作り、みんなとても気に入ってくれたようです。

(下写真:ワラでベッドを作る大人たち)

消防ホースをつるしたベッドの人気も上々です。
翌日には、このようにホースとワラのコラボレーションベッドができていました。

(下写真:ホースが引き上げられベッドに使われているようす)

ワラベッドと消防ホースベッド。 ふたつのできあがりの作品を見ているだけで、 「よいしょ、よいしょ。」とみんなが、ベッド作りをがんばった様子が目に浮かびました。
GARIでは"ベッド作り"は毎日のように見られる行動です。ベッドに使う素材もさまざま。ワラ、落ち葉、小枝、中には食べ残した水菜まで…。
でも、ほんのちょっとした働きかけで、彼らの「ベッド作り」行動を新たに引き出せ、それに夢中になる時間を少しでも増やせたのならうれしいな、と思います。

どーん!と大きなエンリッチメントができなくても、少しずつ、ほんのちょっとしたことでも環境が変わればチンパンジーの行動の幅は広がります。
彼らの行動の引き出しは無限大にあるのです。

14年間、変わらずこの場所にいたチンパンジーがつないでくれたつながりをこれからも大切にして、この先も彼らのために「ちょこっとでも楽しく」なることを考え、彼らの行動をたくさん引き出せるよう、即実行!していけたらと思います。

(下写真:高所恐怖症にはたまらないタワー10メートル地点で記念撮影)

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